【古野電気株式会社様】 -既存事業の成功体験を越えて- 「見えないものを見る」コア技術で挑む新規事業開発のリアル

本業で圧倒的なシェアと知名度を誇るメーカーにおいて、新規事業を立ち上げる壁はどこにあるのでしょうか。
今回は、古野電気株式会社で新規事業創出を推進する「ビジネスラボ」の本川様と、新室長の植村様にインタビューを実施しました。
社内調整の苦労から「染み出し」戦略の重要性、そして外部リソースを活用した顧客視点のマーケティングまで、事業化に向けたリアルなプロセスと苦悩、そして今後の展望を詳しく伺いました。
– お二方のこれまでのキャリアと、新規事業を推進するビジネスラボのミッションや立ち上げの経緯について教えてください。
本川様(以後敬称略)
私は1983年に入社し、長らく国際畑を歩んできました。海外や地方での勤務、駐在経験を経て、舶用機器という本業の領域で仕事をしておりました。そして2024年、新規事業を立ち上げるというミッションにおいて、過去の経験が少しでも生かせるのではないかということでチャレンジさせていただくことになり、現在はビジネスラボに所属しています。
植村様(以後敬称略)
私は2002年に入社し、最初は人事部門に配属されました。その後、新規事業である医療機器の販売に携わり、経営企画部門を経て、再度新規事業の部門に異動しました。舶用機器とは異なる新規事業部門を社内で渡り歩き、その後、ビジネスラボへ参画しました。
本川
ビジネスラボが立ち上がった背景には、中長期ビジョンの中で「本業以外の新規事業を立ち上げなければならない」という全社的な大きな方針がありました。2020年頃から様々なチャレンジを行ってきましたが、なかなかうまくいかない時期が続きました。社内には優れた技術の種(シーズ)はあるものの、それを実際のビジネスとして結びつける部分に課題があったのです。
植村
技術者が抱くアイデアは、どうしても技術に偏りがちで、ビジネスの現実と乖離している部分があります。我々のミッションは、経営層が考える事業のあり方と現場のアイデアを結びつけ、新規事業として大きな絵を描くための伴走支援を行うことです。シーズを持つ技術者のアイデアを事業化へ導き、時には社内を動かしていく役割を担っています。
– 新規事業を進める上でハードルは多々あると思いますが、特に難しいと感じている部分はどこでしょうか?
本川
技術があるだけでは新規事業は立ち上がりません。
お客様や社会の課題に合致し、要望にお応えすることが大前提ですが、新規事業の担当者として一番難しいのは「社内を動かすこと」だと痛感しています。
社内の理解を得て協力体制を築くプロセスには非常に大きな労力がかかります。
弊社は本業である舶用機器事業が非常に盤石で、その分野での知名度やブランド力が極めて高いという特徴があります。
しかし、それがゆえに新規領域では知名度がほぼゼロであり、本業とはスタートラインが全く異なります。
この「本業での高い知名度と成功体験」がある種の枷となり、新規事業が社内でなかなか理解されにくいという側面もあります。
ゼロから事業を市場やお客様に結びつけるためには、担当者の相当な努力が必要です。
そして、その努力を支えるためには、社内の声や文化、経営層の理解を変えていかなければなりません。
そこが一番苦労している部分であり、乗り越えるべき最大のハードルだと考えています。
– 具体的にどのような領域をターゲットにされているのでしょうか?
本川
全く畑違いの領域を狙うという議論も社内で数年前からありました。
しかし、飛び地で事業を立ち上げるには、それが将来的に非常に大きな事業規模になるという確証がないと、会社としてなかなか踏み切れないという現実があります。
大きい市場を狙いすぎてどっちつかずになっている大企業も多い中で、我々は戦略を明確にしています。
弊社の最大の強みはセンサー技術をはじめとする技術力です。
それを応用できる、いわゆる「染み出し」の領域を狙うのがベストだと考えています。
特定分野での技術優位性を自覚し、ターゲットとするお客様や業界が異なっても、我々の技術価値が提供できる領域であれば、会社の支援も受けやすく、技術者自身も強みを最大限に発揮できます。
具体的には「見えないものを見る」という当社のコアコンピタンスを活かします。
例えば、人手不足に伴うDX化やICT化が求められる業界への貢献や、異常気象・温暖化による災害の激甚化に対応する気象防災の分野などです。
エネルギーに溢れる技術研究員たちが、この技術をどう事業化できるか日々検討を続けています。
– 今回、インキュベーションフェーズで外部リソース(エナジャイズ)を活用し、市場検証を行いました。どのような成果がありましたか?
植村
弊社はメーカーですので、本来であればプロトタイプを作ってお客様に試していただき、実需を見極めていくスタンスです。
しかし、初期フェーズから多くのリソースを投入するのは難しいため、今回は問い合わせフォームからアポイントを取得し、訪問せずにオンラインで初回営業を行うという手法を試みました。
素早くロングリストを作ってアプローチしていただいた結果、1週間ごとに反応が可視化されました。
正直なところ、アポイントの獲得率はかなり低いのではないかと予想していたのですが、意外なほどアポイントが取れたことに驚きました。
分野によってはほぼ100%近い確率で面談が設定できたケースもありました。
これほど高い確率でアポイントが取れるということは、お客様に対して我々の商品が強く響いているという何よりの証拠です。
この検証を通じて、仮説の確からしさが極めて明確になったのは非常にありがたい成果でした。
本川
もう一点大きな成果は、顧客視点でのプレゼン資料の作り方を学べたことです。
技術者が資料を作ると、どうしても自社の技術の優れた点ばかりをアピールしてしまいがちです。
しかし今回は、お客様が何に困っていて、どこを説明すれば刺さるのかという仮説を立て、1ヶ月ほどかけて一緒に資料を作り込みました。
この「お客様にとってすっと入りやすい資料」ができたことで、商談の場での議論が非常に活発化しました。
外部の客観的な視点を取り入れることの重要性を強く感じました。
– 検証を通じて、当初想定していた市場との乖離や、ターゲットの明確化といった面で新たな気づきはありましたか?
本川
深浅測量という市場について、当初は市場規模や顧客の解像度がそこまで高くありませんでした。
しかし検証を通じて、内水面(川やため池)、港湾、外洋といった領域ごとに、お客様が求めているニーズが全く違うということが非常にクリアになりました。
この解像度の向上があったからこそ、我々の商材がどの領域に最も適しているのかという絞り込みがしやすくなりました。
単に市場規模が大きいからという安易な理由ではなく、自社の強みを確実に発揮できるターゲット層を特定できたことは、今回の検証における大きな収穫だと感じています。
– 今回の検証結果を踏まえて、今後の事業化への将来的なビジョンをどのようにお考えでしょうか?
本川
大きな野望を実現するためには、まず勝てる領域から入り、地道に着実に信頼を勝ち取ることが重要です。
野望は持ちつつも、今やるべきことをしっかりと理解して進めていきます。
そういった意味で、2026年度は本格販売に向けた準備期間として位置づけています。
植村
マーケティングの結果、ある程度の手応えは得られましたが、正式な販売となるとメーカーとしての責任があります。ここから1年は、品質の作り込みや製造コストの適正化といった、非常に地味な作業フェーズに入ります。それと並行して、発売と同時に花開くかどうかの仮説検証は引き続き行っていきます。
本川
個人的な野望を申し上げますと、内水面からスタートし、最終的には外洋に出て世界市場へ展開していきたいと考えています。
弊社の強みの一つに強力な海外ネットワークがあります。
海外の子会社が「ぜひこの製品を売りたい」と言ってくれるレベルまで押し上げることができれば、一気にグローバルに広がっていくはずです。まずはそこを目指します。
– 最後に、同じく新規事業開発に取り組む方々へのメッセージや、今後の意気込みをお願いします。
植村
本業が伸びている環境下では、「本業だけやればいい」という声が強くなりがちです。
そうした中で社内を巻き込むには、やはり「確からしいお客様の声やニーズ」が一番の武器になります。
顧客のリアルな声をもとに強く主張していくことで、新規事業を盛り上げていきたいと考えています。
また今後は、当社が持つ舶用のワールドワイドの販売・サービスネットワークやブランド力を活用して、他の企業様と一緒に新規事業を検討できるような共創の場も構築していきたいと考えています。
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顧客ニーズの汲み取り方がわからない
顧客検証の方法がわからない、手が回らない
アポが取れない、営業に苦手意識がある
株式会社エナジャイズ代表取締役岡崎 史
プロフィール
大学卒業後、大手飲料グループを経て、40事業を超える新規事業の立ち上げを経験。その経験を活かし、2022年、PMFと顧客開拓を同時に実現する『PMFプログラム』を開発。
徹底的に顧客視点に立つ独自の手法で、年間2,000社の新規商談を生み出すなど新規事業推進のスペシャリスト。
大企業を中心に伴走支援、研修、講演等実績多数。




