新規事業開発ガイド:デジタル時代のマーチャンダイジング事例 ― SaaS編
※本記事は新規事業開発に関する情報をまとめたものであり、弊社のコンサルティングにおいて必ずしも同様の内容をご提案するとは限りません。あくまで参考情報の一つとしてご覧ください。
「プロダクトの良さには自信があるのに、なぜか導入数が伸びない」
「無料トライアルは多いのに、有料化につながらない」
「競合との差別化を訴求しているつもりでも、顧客に伝わっていない気がする」
SaaS型サービスの新規事業を担当していると、こうした悩みに直面することが少なくありません。
SaaS市場は成長を続ける一方で、プレイヤー数も急増し、「機能が似ているサービスが並ぶ中でどう選ばれるか」が勝負の分かれ目です。
そこで近年注目されているのが、マーチャンダイジングの発想をSaaSに応用するアプローチです。
商品を“陳列”するのではなく、顧客が理解しやすく、導入を判断しやすい構造を設計するという考え方です。
本記事では、デジタル時代のSaaSビジネスにおけるマーチャンダイジングの活用方法と成功事例を紹介します。
なお、「そもそもマーチャンダイジングとは何か?」という基本的な意味や考え方を知りたい方は、こちらの記事もあわせてご覧ください。
SaaSにおけるマーチャンダイジングとは?
SaaSビジネスにおけるマーチャンダイジングとは、サービスの価値・価格・導入プロセス・UI/UXなどを“売れる構造”に整理することです。
単に機能を並べるのではなく、ユーザーが理解・比較・行動しやすい体験をつくることが目的です。
具体的には以下のような要素が該当します。
- プラン構成(無料・有料・エンタープライズなど)の見せ方
- サービスサイトの情報設計(ファーストビュー・比較・CTA)
- 無料トライアルや導入事例の配置
- サポート体制や導入フローの提示方法
言い換えれば、プロダクトを「選ばれる状態」に整える設計活動がSaaS版マーチャンダイジングです。
事例①:トライアル設計を変えたことで有料転換率が1.5倍に
あるBtoB SaaS企業では、これまで無料トライアルを30日間提供していましたが、「使い方が分からずに終わるユーザー」が多いことが課題でした。
そこで、マーチャンダイジングの視点から以下の改善を実施しました。
- 登録後すぐに「3分で体験できるチュートリアル」を設置
- 利用開始から3日後に、活用事例のメールを自動配信
- トライアル期間を15日に短縮し、行動を促す設計に変更
結果、有料化率が約1.5倍に向上。
“長く使わせる”よりも“すぐに理解・体験させる”という売り場設計が功を奏しました。
事例②:プラン比較ページの再設計でコンバージョン改善
別のSaaS企業では、価格ページが複雑で、どのプランを選べばいいか分からないという声が多くありました。
そこで、プラン構成を「利用目的」別に整理し、以下の工夫を実施しました。
- 導入数が多いプランに「おすすめ」タグを表示
- よくある質問を比較表の下にまとめ、離脱を防止
- CTAボタンをプランごとに色分けして視認性を向上
これにより、サイト全体のCVRが約30%向上しました。
顧客が“選びやすい売り場”をつくることで、機能差よりも「安心感」が購買を後押しした事例です。
SaaSマーチャンダイジングを成功させる3つのポイント
1.「使いこなす前に理解できる」体験を設計する
最初の数分で「このサービスの価値」が分かる構成にする。
- 価格よりも“安心して選べる理由”を提示する
導入事例、サポート体制、セキュリティなど、検討段階で不安を解消する情報を前面に。
- 検証データをもとに改善を繰り返す
どのボタン・ページ・文言が行動を促しているかを分析し、仮説を再設計する。
まとめ:SaaSにおけるマーチャンダイジングは“導線設計の力”
SaaSビジネスでは、競合との差別化よりも「理解されやすさ」「選ばれやすさ」が成否を分けます。
そのため、マーチャンダイジングの考え方は単なる販売戦略ではなく、顧客体験(CX)を構築する設計力そのものです。
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株式会社エナジャイズ代表取締役岡崎 史
プロフィール
大学卒業後、大手飲料グループを経て、40事業を超える新規事業の立ち上げを経験。その経験を活かし、2022年、PMFと顧客開拓を同時に実現する『PMFプログラム』を開発。
徹底的に顧客視点に立つ独自の手法で、年間2,000社の新規商談を生み出すなど新規事業推進のスペシャリスト。
大企業を中心に伴走支援、研修、講演等実績多数。